「御隠居」はまだまだ先だ!

高齢化が進む時代の中で、これから老後を迎える人たちは、いったいどのような「老後の人生」をおくることができるのでしょうか。
 老後の暮らしを考えると、期待よりも不安の方が先立つのが普通だと思いますが、私たちは、これからの老後は、きっとおもしろくなると期待しています。「隠居」とか「余生」という言葉が通用しない時代になりつつあると感じるからです。「好きな歴史を勉強するために大学に入学したい。時間はたっぷりあるし、できれば博士号を狙うつもり」「昔夢見ていたログハウスを自分で建てて、日の当たるログデッキでパイプをくわえながらジャズを聴きたい」「フランスに留学してパンづくりの修行をして、瀬戸内海の島で一番おいしいフランスパン屋を経営してみたい」「リタイアしたら好きな陶芸を本格的に習ってプロの陶芸家になりたい。そして、その先の夢は、有名デパートで自分の作品展を開くこと」「若い頃、世界中を旅したいと夫婦でよく語り合っていた。いまは年1回の海外旅行を実施中。80歳までに五大大陸を夫婦で制覇したい」このような老後の夢にチャレンジできる環境と条件が整いつつあるのが、高齢化する社会の大きな特徴だからです。
 アメリカでは、かつてのシニア達とは異なる新しい人生観を持ち、多種多様なライフスタイルで活発に行動しながら老後を暮す人々が増えてきています。彼らのことをアクティブ・シニアと呼んでいます。仕事や子育てという責任を果たし終えて、これからは自分の好きなことをして、自分のための人生を積極的に生きたいと考える人たちです。老後の人生を積極的に生きようと、年齢に関係なくチャレンジしている人の話は日本でもよく新聞やテレビで紹介されています。プロスキーヤーで有名な三浦雄一郎氏もその一人です。「もう年だからと枠を作ってしまうとだめになる。夢で人生が変わってくるんだから。鳥は翼があるから飛ぶんではない。飛びたいという夢があるから飛ぶんです」と語る三浦氏は、エベレスト登頂を再度達成しましたね。なかなか真似できることではありませんが、このような考え方と意欲を持って、心豊かな老後を実現しようとする人たちは、社会の高齢化のスピードに合わせるかのように加速的に増えてきています。老人扱いされて不思議のない年齢の人たちが、青年時代、中年時代と同じように「老後の人生」を前向きに捉えて、自分らしい老後を、しかも誰にも遠慮せず自由に、そしてわがままにチャレンジできる時代になってきているのです。

高齢者が主役の時代がやってくる

 なぜ、高齢者にとっておもしろい時代になってくるのか、その理由はいくつかあります。まず一番にあげられるのが「高齢者が主役の時代」がやってくるということです。
 わが国は、いま世界に先駆けて「高齢社会」から「超高齢社会」へと向かっています。超高齢社会とは、65歳以上の高齢者が人口の21%を超える社会をいいますが、日本の高齢化は欧米の2倍から5倍という速さで進んでおり、世界で初めての「超高齢社会」に入るのは、もう時間の問題です。
 高齢者の人口は、2050年までさらに増え続けていきます。65歳以上の人口は2015年には4人に1人、2050年には3人に1人強になると推測されています。
 このように、高齢者層が増え続けていけば、社会の中心は多数派である高齢者にシフトしていくことになります。そうなると、政治的にも経済的にも注目され、これまでのように社会から引退した存在ではなく、むしろどの世代よりも社会に大きな影響力を持ってくるでしょう。
 リタイアしたら、家族や社会のお世話になりながら暮らすという遠慮した暮らし方は、もう過去のものになり、世間の老人観も変わってくるに違いありません。これからは、高齢者を中心に社会が動いていく時代といっても過言ではないでしょう。
 アメリカには、AARP(全米退職者協会)というNPO団体があります。もともとは約50年前に、エセル・パーシー・アンドラスという女性教員が退職したとき、政府の高齢者政策がお粗末なのと、世の中があまりにも高齢者に対して年齢差別をするのに怒りを覚えて、「自分たちの問題は自分たちで解決しよう」と考えたのがキッカケでつくられた組織です。50歳以上が入会条件で、いまでは会員3400万人という大組織になり、政府の高齢者政策や大統領選挙などに大きな影響力を持ち、また高齢者医療保険や医療扶助制度の成立や定年廃止などの成果をあげながら、自分たちの暮しやすい社会づくりを行っているのです。
 現会長のジョセフ・パーキンス氏は、「私たちが高齢と呼んだものは、30年前とは変わっています。長い間、誰もがそう思っていた加齢による衰えはないのです。これは新しい現象です。人類の歴史の中でこれほど高齢者が多く、活力があり、健康な時代はかってなかったことです」と語っています。

その先端を行っているが日本です。したがって、わが国でも高齢者と呼ばれる人たちが、社会の主役として大きな影響力を発揮できる時代になっていくことは容易に想像できます。ジョセフ・パーキンス氏が、「高齢者は負債ではなく人間の資本です。債務ではなく社会の資産です」と語っているように、高齢化が進むほど、高齢者の存在の意味は大きくなっていくのです。これまでは、老後の暮らし方というと家族や社会のお世話になりながら暮らすというイメージがありました。しかし、これからは違います。高齢者が誰にも遠慮せず自由に発言したり行動したりしながら、自分の人生を楽しむことができる時代になろうとしているのです。

 社会のために役割を果たしてきたのだから、これからは、自分自身のために本当にしたかったこと、あるいは夢だったことを叶える人生、年齢や周囲を気にすることなく、自分のペースでわがままに楽しむ人生であるべきではないでしょうか。このような老後を実現させるのではと期待されているのが「団塊の世代」です。私たちも、団塊の世代が老後の常識を破り、新しい時代の「老後の新常識」をつくってくれるのではと期待しています、老後観や暮し方は、おそらく上の70歳代、80歳代の人たちや、下の50歳代、40歳代の人たちの参考になると思います。

団塊の世代が老後に新風を

 戦後の復興が始まった1947年から1949年の3年間にベビーブームが起こり、戦争を知らない子供たち(団塊の世代)が誕生しました。以来、彼らは今日に至るまで、常に日本社会の発展の主役でした。そして、さまざまなブームを起こし、消費経済をリードし、古い価値観を壊しながら新しい文化を築いてきました。
 彼らがヤング世代になった頃、音楽ではグループサウンズ、フォークソングのブームを起こし、音楽の世界に新風を巻き込みました。ファッションに革命を起こしたのも彼らです。アイビールックの登場で学生服が当たり前だった学生がオシャレをし始め、当時の大人が眉をひそめていたジーンズやミニスカートをブームにして、やがてはすべての世代に広げていったのも当時ヤングの団塊の世代でした。
 そして、学生運動を巻き起こすなど社会に対して影響力を発揮した後、団塊の世代が、社会に出たのは高度成長の真っ只中。今度は、経済的な余裕を利用して新しい消費文化、レジャー文化を開花させる原動力になりました。ボーリングやスキーに夢中になり、ディスコやカラオケといった新しい遊びを次々と社会に定着させていきました。時代のトレンドに敏感に反応し、それまでの時代の固定概念を次々と壊していく役割を彼らは果たしたのです。
 その団塊の世代が、結婚期を迎えると、マイホーム・ブーム、マイカー・ブームを起こし、ニューファミリーと呼ばれる新しい家族のライフスタイルを作りあげました。親と別居して、「核家族」という社会現象を生み出したのも彼らです。
 このように、団塊の世代は、戦後日本の歴史のなかで常に革新的な役割を果たしながら人生をおくり、そして現在、社会現象を起こして注目を集めているのです。
 700万人という団塊の世代が、次々とリタイアして高齢者予備軍となっていくのですが、彼らが、前の世代と同じ感覚で老後を暮すとはとうてい考えられません。おそらく、これまでの常識ではとらえられない多様な価値観と行動力によって、日本の新しい高齢者文化を築いていくことだろうと思います。博報堂が団塊の世代の「定年退職のイメージ」について行った調査によると、1位「新たな出発」、2位「人生のひと区切り」、3位「第二の人生」、4位「自由」、5位「悠々自適」という結果がでました。「引退」「老後」「不安」といったイメージはその後にしか出てきません。この調査結果をみると、とても「余生をおくる」という印象はありません。それどころか、「さあ、これから思いっきり楽しむぞ」という印象を受けます。アメリカでは、団塊の世代と同じベビーブーマー層がやはりリタイアの時期を迎えていますが、社会福祉学者フェルナンド・トーレスギル氏は、著書「ニューエイジング」の中で、「ベビーブーマー世代の高齢化により、年齢の意味が変わり、高齢者のニーズが変わり、高齢者の社会における存在力が変わる時代になっていく」と語っています。
 アメリカでは、このような新しい高齢者をアクティブ・シニアと呼んでいますが、最近では、高齢者という言葉の意味が実態に合わなくなったということで、50代の人たちを「50+」、60代の人たちを「60+」と呼ぶようになってきています。かつての老人とはまったく違う人生観・価値観を持ち、思う存分に趣味や遊びを楽しんだり、これまでは余裕がなくてできなかった勉強を始めたり、損得抜きでやってみたかった仕事に挑戦したり、ボランティアで社会に貢献したりと、老後の人生を思う存分に楽しもうという人たちを表すのにふさわしい呼び方かもしれません。
 団塊の世代の人々が、これから「60+」「70+」と呼ばれ、働き盛りの年代の人たちが「うらやましい。早く老後になりたい」とあこがれるような、新しい老後のライフスタイルを見せてくれる可能性は大です。

新しい老後を学ぶ

 このように時代の流れを見ていくと、超高齢社会への移行は、すなわち高齢者が「よりイキイキと暮せる社会」へと移行する時代だといえます。
 今日でも、わずか10年、20年前までは、定年退職をすると社会から余剰人員扱いをされ、毎日が日曜日で暇をもて余し、どのような暮し方を選ぶにしてもその選択肢がとても少ない時代がありました。その頃と比べると雲泥の差があります。
 たとえば、かつては老人スポーツといえばゲートボールがその代表格でした。最盛期には700万人の人たちが参加していましたが、いまでは100万人台にまで減少しています。歳を取ってから何かスポーツをしたいと思ったときの選択肢があまりにも貧弱だった当時と比べ、いまではシニア・スポーツは約500もあるといわれています。これだけ選択肢が多ければ、ゲートボールだけではなく、それぞれ好きなスポーツを選んで楽しむことができます。シニア・スポーツの多様化は想像以上に進んでいるのです。
 スポーツに限らず、いろんな面で選択肢は飛躍的に増えています。「老後を暮らす土地」ひとつにしても、昔はこのまま都会に住もうか故郷に帰ろうかという程度の選択肢でしたが、いまでは、気候が暖かい土地、趣味が楽しめる土地、温泉に入れる土地、便利さと刺激を得る都会の土地、自然を楽しむ田舎の土地など。さらに海外移住で、物価の安いアジアの土地、大人の文化を楽しむヨーロッパの土地などなど、かつては考えられなかったほど、自由に選べる時代になってきています。
 趣味や教養の分野も、旅行の分野も実に豊富なメニューがシニアのために用意されるようになったし、大学も勉強したい高齢者のために門戸を開いてサービス競争が始まっています。社会参加したい人にも、ありとあらゆる目的のボランティア団体が増えており、選ぶのに困るほどの状況になってきています。さらに、いろんな企業がシニア層をターゲットにして商品開発や市場開拓に力を入れ始めているので、暮らしの便利さも格段に向上してくるはずです。それだけではなく少子化で労働力不足になるため、行政も企業も高齢者の経験や技能を生かそうとしているため、これからは仕事の選択肢も増えていくはずです。このように、社会全体がシニア層のために変貌を遂げてきており、暮らす・楽しむ・学ぶ・仕事をするといったあらゆる面で老後の選択肢が増え、チャンスが広がってきているのです。この傾向は、今後ますます顕著になっていきます。これからの老後は、いろんな可能性が増えて、その気になりさえすれば本当に楽しみな時代になると思います。

充実した老後を実現するために

 時代は高齢者のために動いているという説明をしましたが、その流れの中で、個々人の老後を、夢があり、健康で充実したものにしていくためには、どうすればよいのでしょうか。
 おもしろいデータがあります。上海銀行が、世界10カ国を対象に「退職と老後」に関する意識調査をしたところ、日本人は他の国に比べて「楽観的である」という結果がでました。老後の不安についての質問に関して、健康の不安だけは他国と同じように高い数値がでましたが、その他の不安については10カ国で最下位ばかりでした。(ちなみに、すべての不安項目について高かったのはフランスでした)
 もう一つ、老後を考えるための情報や知識を得る方法についての質問で、日本人が回答したベスト3は、「新聞・雑誌などを読む」(18%)、「必要資金と収入の分析調査」(7%)、「友人・親族に相談」(5%)でした。また、「老後について何も準備していない」という回答は67%もありました。
 調査の方法によって回答は異なるので、一概にこのデータで判断はできませんが、他の国より恵まれた環境にあると言えそうです。
 ただ、この調査で気になるのは、「老後の準備をしていない」という人の多さです。おそらく、日本人は他国に比べて経済的にも社会環境にも恵まれており、そんなに心配しなくてもそこそこの暮らしができそうだという余裕があるのではないでしょうか。
 何とか生活していければよいという考え方も一つの老後観ですが、誰しも願う本音は、できれば夢が持てる老後、充実感を持てる老後、楽しく刺激がある老後だと思います。時代がせっかくその環境とチャンスを与えてくれているのだから、より良い老後をめざして自分の希望にかなう「ライフスタイルの実現」にチャレンジしてみてはどうでしょうか。

 


 私たちは、これから老後を迎える団塊の世代はもちろんのこと、いま老後を暮らしているシニア層の方々を対象に、老後を学ぶ「アクティブ・シニア」を創設し、活動を展開しています。

趣味・友達作り・老後の家計・健康・遊びなど、さまざまな分野についての知識を学び、老後にやってみたいと思うことをテスト的に体験し、より充実した老後をおくるためのチャンスを得ることを目的に、シニアのためのカルチャー事業として展開しています。
 先の「老後のための情報や知識を得る方法」についての調査結果にあるように、ごく普通の人たちにとって情報源はあまり多くありません。いろんな専門家から直接学び、いろんな体験をしてきた同世代の人たちとお互いに語り合えば、本当に欲しい情報と役立つ知識が入ってきます。そうすれば、漠然と考えていた老後から、自分のありたい老後のイメージが発見できるのではと思うのです。
 老後を考えると漠然とした不安にかられる方もいると思いますが、その多くは情報を持っていないための不安、経験したことがない未知への不安だと思います。その不安は、知ることと体験することで、少なくとも取り越し苦労に属する不安は解消されるのではと思います。リタイア後の暮らしは、老後というより新しい自分のための人生のスタートです。自信と楽しみを抱いてスタートできれば、ワクワクした気持ちと期待感にあふれてくるのではないでしょうか。

充実した老後をおくるために

 昔は、健康で長生きができれば、それだけでおめでたい事でしたが、数えで61歳の「還暦」は当然のこと、ここまで生きるのは珍しいとお祝いされた70歳の「古稀」や、77歳の「喜寿」でさえ平均年齢が超えてしまい、88歳の「米寿」に近づいているのがいまの時代です。老後への想いは人それぞれに違いますが、超高齢社会において一つだけはっきりしていることは、ただ漠然と「年金生活でのんびり暮らせればよい」というには、あまりにも年月があり過ぎるということです。これだけたっぷりと長生きできる老後を、どのように過ごせば第二の人生を充実させることができるのでしょうか。私は、老後を充実させるには、「健康」「楽しみ」「友だち」「収入」の4つの条件を満たすことだと考えています。これが本書の主題なので詳細は後章で述べますが、ただその前に、「気持ち」という大きな力があると思います。
 詩人サムエル・ウルマンが書いた「青春の詩」という有名な詩があります。マッカーサーが愛し、松下幸之助が座右の銘にしていたという話を聞いて読みましたが、とても感動しました。長い詩でいろんな訳があるのですが、その一つをご紹介します。

青春の詩(サムエル・ウルマン作/宇野収・作山宗久訳)

 青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方をいう。(略)
 年を重ねただけで人は老いない
 理想を失うときはじめて老いる。
 歳月は皮膚にしわを増すが、熱情を失えば心はしぼむ。(略)
 60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、驚異にひかれる心、
 おさな児のような未知への探究心、人生への興味の歓喜がある。(略)
 20歳だろうと人は老いる。
 頭を高く上げ希望の波をとらえるかぎり、
 80歳であろうと人は青春の中にいる。

 この詩は、何歳になっても気持ちの豊かさが人生を豊かにすることを教えてくれます。 アメリカに、75歳で生まれて初めて絵を学び、80歳で個展を開いて一躍有名になったグランマ・モーゼスという女性がいます。彼女は、農家に嫁いで働きづめの人生をおくってきたごく平凡な女性でしたが、子供達が結婚して家を離れ、夫にも先立たれて一人暮らしになったとき、嫁いだ娘にすすめられて絵筆をとったのがきっかけだったそうです。、老後を思いっきり充実させている人たちはたくさんいます。
 この人たちの人生を老後と呼んでよいものかどうか戸惑いますが、人それぞれに実年齢よりも「気持ち年齢」で老後の始まりが異なってくるのではとも考えたりします。厚生労働省のアンケート調査で、何歳からを老後と感じるのかを質問したところ、「65歳から」と「70歳から」と答えた人が圧倒的に多かったそうです。70歳以上の回答者の中には、「80歳から老後と考える」と答えた人が15.6%もいました。実年齢よりも「気持ち年齢」の若い人が増えていることがよく分かります。また「身体年齢」も昔とは大違いで、65歳以上の87%が元気な人たちで占められています。元気で長生きが当たり前の時代の老後は、気持の持ち方によって、いろんな暮らし方や楽しみ方の可能性が開けてくるといってよいのではないでしょうか。

老後にやってみたいこと

 老後になるとやってみたいことは、人それぞれに思い描いていると思いますが、他の人がどう考えているのかは案外に分からないものです。「好きな釣りを思う存分に楽しみたい」「海外で自由に暮らしたい」「ボランティアで社会に貢献したい」といった夢を熱く語ってくれる人もいます。また、逆に何も思い浮かばないという人もいます。おそらく、趣味も楽しみも適度にはあるが、生きがいというほどではなく、何をすれば本当に老後を充実させることができるのかは、まだ見つかっていないという人が多数派だろうと思います。そこで、ご参考までに、他の人は老後に何をしたいと望んでいるのかを調べたアンケート調査をご紹介します。和歌山県の長寿社会推進課が行った「高齢者一般意向調査」(平成17年)で、65歳以上を対象に「今後やってみたいこと」という質問に対する回答結果です。一番多かった回答は「友人・知人との付き合い」(35.4%)で、2番目が「個人で行う趣味の活動」、(29%)でした。後は、「近隣との付き合い」(26%)、「健康づくり・介護予防」(25.6%)、「働くこと」(23.3%)と続いています。東京都・羽村市が行った「市民アンケート調査」(平成16年)でも、「老後をどのように暮らしていきたいと思いますか」という質問に対して、第1番目が「日常生活の中で、家族や友人などとの交流を深めながら暮らしたい」(32.4%)、2番目が「趣味を深めたり、新しい知識を身に付けたい」(28.8%)、3番目が「自分に適した仕事を持ちたい」(16.4%)といったように、同じような回答が上位を占めています。「親しい友人・知人との付き合いを楽しみたい」「好きな趣味を楽しみたい」の2項目は、どの調査でも1位、2位にあがっており、多くの人たちが描いている、ありたい老後のイメージがよく分かります。「友だちと趣味は人生を豊かにしてくれる源である」という格言がヨーロッパにありますが、歳を重ねるごとにその賜物を大切に感じるのではないでしょうか。また、ここ数年の調査で目立ってきているが、「仕事をしたい」と答えている人の増加です。この傾向は、アメリカの高齢者も同じで、これまでは早く引退して老後を楽しむのが成功者といわれていたのが、最近は「働くことに生きがいを感じる」という人がすごく増えています。
 かなり前に聞いた話ですが、富裕層だけが暮らすシニア・タウンで、大金持ちの老人が靴磨きをしていたそうです。元部下が偶然、通りかかってその姿に驚き、「なぜあなたのような成功者が靴磨きを?」と聞いたところ、その老人は「孫に小遣いをやるためだよ。私がこうして働いて稼いだお金でな」と、笑顔で答えたそうです。
 老後の仕事は、家族を養うために、子供を育てるために、またはリッチになるために働いた頃とは意味合いが違います。この例のように、生きがいのために、楽しみのために、また健康のために仕事をしたい人は、これから増えてきそうです。

シニアライン